腐印注意

腐印の 映画 アニメ BL 雑記。おもにネタバレありです。

「冷たい熱帯魚」

愛のむきだし」で目をむいたよの園子温監督です。常々、「邦画ツマンネー」と言い続けてきた私、まちがってた……どこに出しても恥ずかしくないスゲー作品も(たまには)ある、と素直に感服させられたのですが、そっちは、笑いあり涙ありの立派なエンタメ作品、突っ走る青春もので、うはうは笑いながら見れたのに対し。。。「冷たい熱帯魚_| ̄|○。同じような作品を期待するとヤケドする。大ヤケド。
実際に埼玉で起きた連続殺人事件を題材にしているそうで、まあ、そういう意味でも楽しい作品にはならないわけですが、そのへんの、ちょちょっとした実話売りのものとはわけが違いました。怖い。ヘタなホラーより全然怖い。それは、幽霊やお化けみたいな非現実的な恐ろしさではなくて、日常にぽっかり穴をあけているリアルな現実の恐怖です。ある、こういうこと、ある。こういうシーン、みたことある、と、もう、ほんとーにイヤな気分になった。主人公が、あいまいな態度でいる間に、どんどんどんどんのっぴきならない状況に陥っていくあの感覚……はっきり“NO”といえないがために、つけこまれていくあの苛立ち。観ているこっちには、進む道の先に地獄の蓋が開いているのが見えるので、私としては戦う姿勢をみせないがためにずるずる引きずり込まれていく主人公のほうにむしろ苛立ちを感じました。「おまえがそんなだから、こっちまで見たくないものを見せられるハメになるだろうが!」と途中までは歯噛みしていたんですが、もう、これはどうやっても抜け出せないな、というころになると、むしろ仰天の展開の数々のほうに引きつけられて、「これ、どうなるの?」という一点に興味は絞られました。
まあ、当然と言えば当然の破滅的なオチになるんですけど、そこにいたる道筋が凄い。日常と非日常が入り乱れるシュールなシーン満載です。ヘタに描いたら、すごく嘘くさい話になったり、正義感をふりがざした説教臭い話になってしまうんだろうけど、淡々としているけど情熱的、丁寧だけど大胆、という感じで、絶妙のバランス。すごい、としかいいようない。
とくに、風呂場のシーンなんてね……。
浮世絵に出てくる地獄絵図が実写に! という迫力です。
ほんと、地獄って、死んでいくところじゃないのね、と思わされた。

映画って、すげぇ、とひさしぶりに思いました。思いましたがしかし……二回は見たくない。私、人間の残酷さがみっちり描かれているような作品平気なほうなんですが、それでも、これはキツイ、というか、あまりにも身近すぎた……たとえば「OLD BOY」とか「MONSTAR」とか、同じようなトラウマ作品てあるけど、でも、そちらにはまだある種の救いというか、愛ゆえの切なさとかが描かれていたと思うんですが、「冷たい熱帯魚」はなぁ……本当に絶望的な気持ちになりましたよ。加虐と被虐、支配と被支配、人間関係の残酷さみたいなのがこれでもかと。。。いや、わかるよ、わかるけどいまさら教えてくれなくていいんだよ、という、ね_| ̄|○。
もー、誰一人として共感できなかった。とくに、オチのあれには顎が落ちたよ!
なんなのあの娘。
悪魔か?!

まあ、これはあくまで作品で、本当の事件は、もっと淡々としていたんじゃないかと思ったりはします。解体をあそこまで楽しんだりしないだろうと思う……むしろ、職人みたいに、こなす作業、という感じだったんじゃないかなとは思うけど。

今回は絶妙のさじ加減、と思った園監督ですが、やりすぎるとラース・フォーン・トリアーみたいになっちゃうんじゃないかと心配……あやつの作る作品は、私にとっては単に悪趣味というのを越えて悪業。私の中のワースト映画は 一位 ドックヴィル 二位 ダンサー・イン・ザ・ダーク というくらい、嫌いを越えて嫌いな監督なので、悲劇や惨劇を淫する、ああいう風にはなってほしくないなーと思います。

実際にあった事件を映画化するなら、個人的には「ゾディアック」みたいな、冷静で綿密な作りのほうが好きです。死者は静かに悼むもの、と思う。


※ すこしたってから原作読んだのですが、べつの意味で原作は面白かった……というか、やはり、はるかにこちらのほうがリアリティはありました。主人公、全然気弱じゃないよ! むしろ賢くて冷静な人でした。あの状況で、同じようにふるまえる人はなかなかいない気がする。。。
あれだけの地獄の場面に付き合わされていて、おかしくならずにいられただけでもすごい強靭な精神だよなーと。原作の方がハードボイルドで、フィンチャーな出来でした。いろんな示唆にとんでいるので、是非おすすめ。