腐印注意

腐印の 映画 アニメ BL 雑記。おもにネタバレありです。

「僕達急行 A列車で行こう」

森田芳光監督の遺作だから、というのもちょっとはありますが、基本、松ケンです。松ケンが出ている作品は一応目を通すようにしている私。大変ご活躍中の瑛太とのコンビで、まあ、中身がアレでもそれなりに楽しめるだろう、とあまり期待していなかったんですが、いやこれは。これはまさかの良作! と途中からけっこう真剣に画面に見入ってしまった私です。

森田芳光、私もレイにもれず「家族ゲーム」でハマッてそれからすこしは追いかけていたんですが、うん、こう、えーっ! っていう作品もあってですね、力尽きて途中からあまり見てなかったのです。とくに、「キッチン」。あれが……あれがツラすぎた。私、どんなものでも見始めたからには一応最後まで見る性質なんですが、30分で挫折した。それくらい、橋爪功のミスキャストっぷりとかキツかった。原作が好きだったので、「よしもとばななを映画って……だいじょうぶか?」と思っていたら、やっぱり大丈夫じゃなかったよ! とがっくり。まだ「TUGUMI」のほうがよくできてたかな、と、もう、こころのなかから抹殺。
しかし、「武士の家計簿」とかみてですね、「あれ? なんか……ふつう? ふつうの映画も撮るの? 最近?」とすこしガードをゆるめて今回の作品に挑んだ次第なんですが、うん、でだしはね、やっぱりちょっと「……。」となりましたよ。とにかく、独特の間合いとセリフまわしがあって、あれにね、慣れるのが大変。そして、30分くらいはいまひとつ世界観に馴染めなくて、「うーん、やっぱり私、森田芳光ダメなのかな(家族ゲーム以外は)」となったんですが、松ケンと瑛太が本格的にからみはじめてからすこしずつおもしろくなってきて、あの、とりようによってはダラッとしたテンポも、電車のゆれとか、車外の風景の美しさとか、そういうのと合わさると、「なんか、わるくないかも」と感じられてきました。
この映画って基本は鉄道ファンの話なんですけど、こう、ファン心というか、マニアックな趣味に共通する同志を見つけたときのひかりが射すような喜びとか、そういうのが、ヲタ的には「わかるよ!」という感じで、とにかく、きゃっきゃうふふと松ケンと瑛太が電車の話をする場面にこっちもほんわかとした気持ちになり……それがこう、全編通してちりばめてあってですね、微笑ましさ爆発なんです。
とはいえ物語なので、それなりに、壁らしきもの、人生の試練らしきものも訪れるのですが、なんだろうなー、そういう場面で、みんな、あまり深刻にならないんですよね。「ん?」とはなるんだけど、ちょっとすると、「ま、いいか。とにかく進んでみるよ」という感じで、のんびり、まわりみちしたり、道草くったりしながら、別れがあっても、行き止まりになっても、ちょっと立ち止まってみて、誰かがあらわれて、話したり、ごはん食べたりしていると、またふっと、道がみえて、そこを進んで、気がついたらすこし広いところにたどりついていて、わかれた人もまた、べつの道からそこにたどり着いていましたよ、みたいな、まあ、悪くとれば、すごくご都合主義で退屈なストーリー、とも言えるのかもしれないですけど、私は、なんか癒されましたねー。出てくる人がみんな、声を荒げず、攻撃的でなく、それぞれちょっとヘンで、でもだれもそれで困っていたりはしなくて、さまざまなことを、「まー、いいか」と流して、ささいなことで喜んだりする、そんな世界。
10年前に見ていたら「えーなにこれ」となった気もするし、10年後に見たら「ふつーにツマラン」となるのかもしれないほんと、びみょーなバランスの内容なんですが、でも、いまみると、癒されちゃう枠のひとはたしかにいる気がするんだな。
そーですねー、あまり、キリキリしていないとき、時間に余裕のあるときに、しずかにのんびり邪魔されずに鑑賞するのがよいかと思われます。「間宮兄弟」とか好きなひとなら、きっと楽しめるはず。
最後に残すのがこういう映画だったのって、なんか、森田さん、素敵な人生だったんですね、という気がしますよ(勝手に)。そして、趣味と、それを分け合う友人との時間、大事! と、素直にうらやましい気持ちにさせてくれます。青々とした山と、おもちゃみたいなかわいい色合いの電車、広がる花畑、と、絵本のような、美しい景色も見られます。日本人が今わの際にみる風景って、こんな感じかも、と思わせられる。

そうそう、私が一番ほろりとキテしまった場面、それは、瑛太がカバンのなかからおもちゃの電車を取り出すところです。「持ち歩いてたのかよ!」となんか、たまらんものがありましたな。「惚れてまうやろ!」とおもわずツッコミ。

それにしても、松ケンのあのたたずまいは、すごーくよかったなぁ。たぶんエリートなのに、全然、きどってなくて、かまえてなくて、いつでもほんすこし機嫌がいいんです。や、デスノのLとか、「マイ・バック・ページ」みたいなメキメキ作りこんだ役もわるくないですけど、私はどちらかというと、「神童」とか、今回みたいなわりとふつうの役回りの松山くんが好きなんですよね。