腐印注意

腐印の 映画 アニメ BL 雑記。おもにネタバレありです。

「黒い家」

勝手に貴志裕介ブームの私、ずっと見ようかどうしようか迷っていたコレに、ついに挑戦です。うん、とにかく「僕達急行」がよかったのでな。森田芳光を怖がるのをやめようとな。思いたって、見てみましたよ。

結論。
そこそこ、怖い。
蓮見の女性版が主人公。
西村雅彦が若い。
内野聖陽も若い。
つか、声がちいさい。
わざとか?
音量をかなり大きくしないと聞こえないヨー。

全体にはよくできていました。うん、展開もわかりやすかった。ところどころ、レイの森田節で、ヘンな会話のズレとかあるんですけど、今回、ちゃんとソレが怖い感じにしあがってました。たぶん、一般的に怖いと思われるのは、家の中の殺戮現場とか、最後のビルのなかでの戦いのシーンなんだと思うが、そこはさ、なんつーの、やっぱホラー的によくある展開で、いやいや、それはさすがにちょっとファンタジーだよな、という、定番的な見せ方がすぎで逆に怖くなくなったりしてしまった私なんだが、むしろ、この作品で秀逸なのは窓口! 窓口対応ですよ! 
主人公、保険会社でお客さんの対応するんだけど、電話でも、窓口でも、もう、大竹しのぶと西村雅彦が、ヤバイ空気をバリバリに出しているお客さんなんです。ザ・モンスター・クレイマー。自分が窓口にいたら、もっとも相手をしたくないシチュエーションとか展開が、これでもかと! ああ、こんな人たちに名前を名乗りたくない! でも聞かれたら答えなきゃいけなくて、次から名指しでやってくるんです。「……どうして?」という、ほとんど脅迫に近いあのセリフ。あのセリフが、ものすごくMPを削り取るってこと、わかっていただけるでしょうか。一見、会話がかみ合っていないようなんだが、じつは、お互いの利害がバリバリに衝突している、あの空間。あの場所こそが、真の戦いっス。包丁を持ってあらそっているときのほうがわかりやすいくらいっス。
どうやら、貴志さんは実際に保険会社に勤めていたそうで、なるほど、それでこそのあのリアリティと思いつつ、それとはべつに、森田演出の主人公の気弱さ、腰砕け加減におどろきを通り越していらいらしましたよ。あんなヤバ気なひとたちに目をつけられたらさー、こー、もうちょっと自衛しろよー、引っ越せよー、転勤させてもらえよーと。つかさ、このひと、なんか自分から相手に近づいて行っている節もあるんだよね。なんだろーなーもう。君子危うきに近寄らずですよ。
とはいえ、「冷たい熱帯魚」の主人公ほどイライラしないのは、基本、「黒い家」の主人公は普通にいいひとだからです。作中でも語られていたが、善意につけこむ人がいたからといって、善意が悪いわけではありません。当然、つけこむほうが悪い。「冷たい熱帯魚」の主人公はさ、多少打算が働いてるんですよね。なのでちょっと自業自得感が強くなってしまうんだが、まあ、だからといってあそこまでひどい目にあうほど悪いこともしてないケド。

「黒い家」に話をもどしますが、殺人者の役は大竹しのぶが演じています。や、すごいっす。もうね、いる。こういうひと、いるし、ヤバイってわかる。話し方とか視線の感じで、あきらかにちょっとアレだってわかる、というくらい、アレ的にわかりやすい演技でした。ひとりでボーリングをしてるシーンあるんですけど、あの、なんともいえない攻撃的な感じ。わーコイツ、殺っちゃってるよー、絶対。とほほー、みたいな。なんだろうなー、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」もボーリングと殺人が絡んでるんだけど、あの、玉とかピンとかのゴツゴツ、ガツンとした感じが、パワフルな暴力衝動のアイコンになりやすいのかなー。とにかく、怖いんですよね、ボーリングのシーンが。しかもさ、大竹しのぶ、わざとなのか、こう、いかにも鈍くさそうな、だらーっとしたおばさんの感じで出てくるのに、暴力的なシーンになると妙にキビキビとしたエッジの効いた動き方するもので、そのへんのギャップもなんか怖いの。あきらかにバランスを欠いている感じっていうか……。
蓮実とちがって、頭がキレる、とか要領がいい、という感じはしないんですけど、そうですね、恐怖感がない、というのは、伝わってくる。躊躇とか葛藤もないので、やることがじつに思い切りがいい。そこは……、ちょっとカッコイイ。
何人も殺して保険金を受け取ってバレてないんだから、頭もいいんだろうなーと思うんだけど……しかしそのわりに、無駄な挑発をしたりして、犯罪がバレるきっかけも作っているんですが。もうすこし警戒心があって、冷静ならなー……って、犯罪の味方をするわけじゃないですけど。

でもなー、やっぱりなんか、ちょっとした違和感はありますね。これも、原作読んでみないとなんともいえないけど、うん、たんに、ホラーなんですよ、エンタメですよ、といわれれば、まあ、サイコキラー枠なんですね、で終わりでもいいんだろうけど、貴志さんの作品は、わりとちゃんとリアリティがあって、だから逆に、「本当の犯罪者って、こんなかなぁ……」と思わせられるところがあり、いつもそこでひっかかっちゃうんです。
こころがない、というのが悪の教典でもテーマになってたけど、じゃあ、こころってなに? という話で、こころのあるなしと、人を殺す殺さないは、全然べつの話なんじゃ? とつい思う。「こころがないから人を殺しても平気なんです」といわれても、それ説明になってるの?
もっとこう、その間にさ、長くて複雑な話があるんじゃないの? と思っちゃうんだよな……。

まあ原作の話はおいておいて、映画はですね、うん、おもしろかったですよ。ふすまをあけたらその向こうに、とかね、わっと引きつける演出とか。「冷たい熱帯魚」を見ちゃったあとだから家の中の様子にはそんなに衝撃は受けなかったけど、公開当時に見ていたら「ひゃーーー!」となったかもしれん。
グロいのが平気なら、一度くらいは見ていただいたらよろしいかと思う。いまみても、あまり古い感じがしない、カッコイイ感じのホラー(?)だし、内容の割に、ベタッとひきずるところがない、意外に爽快な後味です。なんかこう、うっすら笑えてしまうのは、やっぱ森田監督の味なのかなー。

どうでもいいですが、主人公の彼女のしゃべり方が綾波レイでなんかウケた。あと、大竹しのぶ、けっこうグラマーだな、と思ったりしました(笑)