腐印注意

腐印の 映画 アニメ BL 雑記。おもにネタバレありです。

「風立ちぬ」

観てきた。

うん、むずかしいな!

ナウシカ」や「ハウル」に較べちゃうと、むずかしいっス。こども向けじゃないのはわかっていたが、オトナも……けっこう人を選ぶかも。。。
とはいえ、「もののけ姫」も「千と千尋〜」も、はじめて見たときは私、「アレ?」と思ったんです。「なになに? どういうこと?」と違和感をひきずりつつ、しかしとにかくアニメとしての動きがずば抜けて美しいので、見惚れているうちに終わっちゃいました、みたいな。
で、その後知識をいれたり何回か見返しているうちに、「あー、そういうことか」とだんだん馴染んでくるということもあるので……今回も、何回かは見てみないと、というのはあるんですが、まあ、とりあえず初回の感想でいうと、やはりちょっとわかりにくいかな(笑)

いや、物語自体は、そんなに複雑でもないんです。飛行機と恋愛、地震と戦争、それを、主人公の視点で描いているだけ、といってしまえばそれまでなんですが、ただな、この主人公が、なんか浮世離れしたひとで、あまり喜怒哀楽を表に出さないというか、こう、終始、夢を見ているみたいなひとなんですよ。というか、本当に、急に夢、というかビジョンみたいなのを見始めて、それが過ぎ去るとぽん、と話が数年飛んでいたり、あれは、話に追いついていくのがなかなか大変です。やはり、最低限の近現代史の知識は持っていないと、うまく物事がつながっていかないと思う。
ちゃんと考えると背景では劇的なできごとが立て続けに起こっているはずなんだけど、そのすべてが、主人公的には、飛行機を作っている合間に淡々と過ぎて行ってしまうというか……、そうねー……、後半の恋愛話のあたりではそこそこ心情面での盛り上がりもあるんですが、それもさ、いまひとつ臨場感に欠けるというか、こう、常に、すこし引きで見ているみたいな、重要な場面ほど、セリフも音もなく、表情と間で見せるみたいな、いや、私はどちらかというとそういう演出の仕方好きですが、ただな……それを、実写で俳優がやるのと、アニメだと、またちがうような気もするしな……。
人間て、もう、そこにいるだけで存在自体がうるさいぐらいになにかを表してしまうので、余計なことをすると過剰になるからそういう演出が活きるところがあると思うんだが、アニメってなー……。動いたり話したりしないと、絵は絵でしかないってとこあるからなー……。そこのところは、せめて声で、生きている人間の生々しさを表わしてくれないとさ、と、思うんですが、そこに庵野(笑)
私はどちらかというと、主人公に感情移入していっしょに物語を体験したいほうなので、話が進んでいく時の牽引力のひとつとして主人公の気持ちの流れを感じていたいほうなんだが、うん、そこもさ、どうも堀越さんの気持ちがつかみづらい。いろいろなできごとが起こっているとき、この人がなにを感じているのかが、いまひとつつかめないというか、後半の、恋愛でもさ、ヒロインをすごく好きなのはわかるんですけど、正直、「どこが? なにが?」みたいな? 帽子をつかまえてくれたからか?(笑) だいたい、二度目に会ったとき気がつきもしなかったのに、「出会ったときから好きでした」って、オマエ……テキトウスギダロ。
いや、うん、わかります。本当のところ駿さんが描きたかったのは飛行機にまつわる云々で、恋愛のほうはさ、きっと、それだけだと見ている人が退屈しちゃうだろうと、サービス精神でいれてくれてたんだろうな、と思ったりはするんですが。。。
恋愛的なアレもさ、紙飛行機のところとか、手を握るシーンとか、ちょっとした仕草や動きには、本当、胸を打たれるんですけど、でも、やはりエピソードとエピソードの間のつながりがいまひとつうまくいってないような、こう、「恋愛か? 飛行機か? 今度はどっち?」みたいな(笑)
観ているあいだ、すこし時間を長く感じてしまったんですよねー。こう、疾走感が足りないというか、うん、それも、いつもの宮崎アニメと比べてしまうからだとは思うんだけど。
いや、まあ、ね、きっと贅沢なんだとは思います。これがさ、名前も知らない監督の作品なら手放しで誉めた気もするしな。

ただ、そうね、ひとつだけあるとしたら、やっぱり庵野さんが_| ̄|○。
いや、わかる、たしかに素の感じというか、朴とつさみたいなさ、そういうのはすごく感じるんだけど、でも、やっぱり、キャラクターとあの声はうまくなじんでいないような気がしちゃいました。
あまりにも平坦_| ̄|○。
あまりにも普通_| ̄|○。
こうさー、相手を説得しようとか、共感させようとか、そういうものが一切抜け落ちている声なんですけど、あれで普段、コミュニケーションてはかれてるの?(笑) それが逆に持ち味に?(笑) 西嶋秀俊の声とくらべちゃうと、差がありすぎてもう、かえってバランスいいような気さえしちゃったよ(ふたりのシーンはね)。

うーーーん、惜しいなーーー!
主人公、私、キャラはかなりかっこいいと思うんですよ。動きだけ見ていたら、「惚れてまうやろー!」って感じなのに、声がなぁ……。常に現実に引き戻すんだよなぁ。映画を見ているってことを、思い出させるんだよな(笑)

そして、効果音も。。。
今回、人の声を加工して使っていたそうなんですが、うーん、あの違和感やひっかかりがうまく機能しているシーンもあるんだけど、全体にアレだとちょっとな、とか。
たとえば、主人公が見ている夢の中だけでその効果音を使う、とかのバランスにしてくれるとよかったかなぁ。。。全編通してやられると過剰というか、へんなノイズになりました。

そして、これはね、あえて! あえてそうしなかったのかな、という気もするんだが、私の勝手な印象としては、震災や戦争を扱っているのにあまりにも、あまりにもきれいすぎませんか、という。漠然とした不安とかは、よくあらわされているんだけど、でもさ……、この同じ時に、“火たるの墓”みたいな現実を生きていた人もいたわけで、それなのにこの映画ってさ、餓えるところとか、奪うところとか、人が死んでいく姿とか、一切ないんだよね。病でさえ、ちょっと美しいものみたいに描かれている。そういうものはさんざん他で見ているんだから、いいだろう、といわれてしまえばそれまでですが、でもさ、この主人公って、この時代としてはかなり恵まれている立場のひとじゃないですか。ただの庶民の私としては、あの時代に軽井沢の避暑地ですごせるひとに共感するの、むずかしいなー(笑) いや、「風立ちぬ」という小説がそういう内容なのかもしれませんけどね(読んでいないからわからんが)。

たいへんなときこそ、普通に日常を送る努力をする大切さとか、逆境でも、自分にできることをするしかないはがゆさとか、うん、テーマにはね、すごく共感するんです。あんなに心をこめて作ったモノが、ただ壊れるために使われるって、こんな切ないことあるかしらーと、飛行機の飛ぶ姿が美しいほどに感じるし、それに、そうですねー、これは、やっぱりモノを作る人のおはなしなんだよなーと。なにかを作り上げることの達成感と虚しさとが同居しているんだよな。

というわけで、いろいろと複雑なものを感じさせる内容ではありました。

いやでもね、とにかく、構図の素晴らしさとかさ、動く影の演出の巧みさとか、揺れる地面のダイナミックな感じとかね、飛行機がバラけていくときの致密さとか、そういうのは、本当に唸るというか、さすがは宮崎駿、と一見の価値ありです。眼鏡のレンズに瞳が映るところとか、ほんとすごいよ。アニメはさ、実写とちがって、見えているものはすべて描かれたものなんだよね。その線を描くか、描かないか、ひとつひとつ決めている、誰かの脳の中を一度通った世界が目の前にあるという凄さ、それがすみずみにまで感じられる、それだけで満足できます。

私なんてもう、主人公が動いているのをみるだけで、快楽、って感じでもあるので、十分楽しませてもらってはいるんです(なら文句いうなって(笑))。

DVDがでたら手に入れるゾーとは思っているので、見返したらまた別の感想を書くかもしれません。