腐印注意

腐印の 映画 アニメ BL 雑記。おもにネタバレありです。

「回路」

ひさしぶりに見たんですよ。ビデオテープはもっていたんだが、いまごろDVDを見つけたので、すごいひさしぶりにみました。黒沢清のなかでは、「CURE」か「回路」というくらい好き。すげー、わけのわかんない話なんですが、わかんないのがおもしろいっていうか。
加藤晴彦小雪がメインなんですけど、うん、ふた組の話が並行してすすみます。幽霊がねー、パソコンの回路を通じて現世に侵略してくる、というか、はみでてくる? みたいな、とらえどころのない話ヨ。すごーい狭い日常とか人間関係のなかで話が進んでいるのに、最後の方になると世界が滅亡、みたいなスケールになっていて、「いつのまにそんなことに?」とちょっとびっくりする。ぱたぱた人も死んでいくんだけど、死に方がさ、なんか淡々としているというか、すこしずつ、境界があいまいになっていく、みたいな、しずかな進行の仕方します。人間が壁のしみになってさー、ちいさい声で、たすけて、たすけて、とかささやいてるの、すげー恐いんだけど、でも、みているうちに、こんなもんか? みたいな? さっきまでそこにいた人が、いなくなってるんだけど、いなくなっていることに気がつくまで、いないことさえわからない、みたいな、この断絶した感じ? 乾いた虚無感? あかるい諦観?

黒沢作品のすべてに共通している気がするんだけど、とにかく、みんなあんまりさわがない。一生懸命のときでも、それほど声をあらげない。その感じは、けっこう心地いいんですよね。
幽霊もさ、あんまりホラーな感じじゃないんですよ。人をおどかすためにいるわけじゃなくて、なんか、そこにいるんだよね、みたいな? 曖昧な、ぼんやりした、全体に白昼夢を見ているみたいな感じです。

一か所なぜかちょー恐かったの、小雪の頭の縮尺がちょっとオカシイみたいなシーンがあって、「なんかの錯覚? 私の見え方?」と何回か巻き戻したけど、よくわからない。意図してのシーンなのか? とにかく、幽霊とかよりそこが一番怖かった。あと、音。影がでてくるとき、アニメの効果音みたいな「にゅょおぉぉぉお」みたいな音はいるんだけど、それがなんかすげー恐いの。なんなんだろう。飛び降りのシーンより全然怖いよ。

あと、図書館で、人影を追いかけるけど、追いつけない。先輩役の武田真治が「おいかけてみなよ。つかまえられるかもよ」みたいなことを言うんだけど、その、あまりにもフツーな感じがなんか超萌え! でですね、そのあとお茶を飲むところまで、大好きなシーンなんだよな。役者さんの声も、なんかアフレコみたいな感じではいってて、その微妙な違和感とかも、非現実的な感じがします。引いてとっているのに、声は耳元で聞こえてるみたいな……。
なんだろうなー、あの、植物を育てている屋場の感じとか、出てくる人の背景を全然説明しないところとか、とにかく、すべてが独特です。突然知らないところに説明もなく放り込まれて、なにがなんだかわからないんだけど、ずっとそこにいたいみたいな、感じ。背景とか、部屋の色合いの美しさとか、観ていて飽きないんだよなー。 
ホラーとか、ミステリーとか、サスペンスとか、そういう枠でくくれない、あえていうならジャンル、黒沢清ですよ(笑) 役所広司が主役の作品だともっと暴力的な匂いが全体に漂うんだけど、「回路」は加藤晴彦がね、明るい空気を発散させていて、そこもよかったな。なにをするわけでもないのに、好感がもてるよ。
てか、ティーダにしかみえん、とずっとひとり呟いてました。

そうそう、湊かなえ原作の「贖罪」って、黒沢清なんですね。テレビ番組だそうですが。同じ原作者の「告白」はね、まあ、そうだな、前半は面白かったんだけど、オチが……ちょっと私的にはうーん、という感じでアレなんですが、でも、全体にはよい出来だったと思うので、「贖罪」には期待。

あと、びっくりしたのは「リアル」ですよ。
いま、佐藤健がうるせーくらい番宣(笑)しているあの映画、監督、黒沢清だったんですね。えーーー、ですよ。だって、どうみても恋愛ものなんですけど……? 邦の恋愛ものってほんとー興味もてない(ドラマの白夜行以外)ので、予告をみて「ぷぷー! なに? インセプションのパクり恋愛ドラマ?」とか観る気ゼロだったんですが、うーーーん! 黒沢清がはじめてメジャー(笑)になれるかもしれない作品かー、と、いま、すごい悩んでマス。
黒沢清、もちろん好きなんだけど、「カリスマ」とか「アカルイミライ」とか、ほんとにわけわかんない作品もあるからなー(笑)
いや、わけわからなさはみんな共通なんですけど、わからないなりにも好みが分かれるんだぜっていう、その分かれ目の、どちらに振れるんだリアル、と。
まあ、原作つきだし、すくなくとも大画面で健がみれるじゃん、とあまり期待しないで見に行けばいいのかもしれませんが。
劇場でアレな作品をみたときのダメージってDVDの比じゃないからな!
と「トータル・リコール」のリメイク版を思い出す(笑)

※ 「回路」の米版、「パルス」もみちゃった!
……うん、想像通りのできです_| ̄|○。
きっと米の人は、黒沢清のわけわかんない感じに耐えられないだろうな、と思っていたんだが、耐えられてませんでした(笑) 一生懸命説明しようとするがあまりに台なし(笑) なんか気の毒(笑)
私が「いいな」と思ったシーンって、本筋に関係ない余剰のようにみえるところが多いんだが、削られてた(笑) 削られてたよ電車のシーン! あの、まるで冥界に迷い込んでしまったみたいな風景、鬼太郎っぽくてよかったのにー。
“幽霊”という存在は、米的にはピンとこないのかしら? 映画的にヒキがよわいと思ってしまったのか? “それはもともと人間だったもの”だから怖く切ないのであって、どっかの異次元から侵略してくる謎の生命体とかになってしまったら、もはや黒沢清である意味はゼロなんだが……。
赤いテープの目張りとかもさ、たんに記号的なもので、それを「赤い色の波長は通り抜けることができない電磁波的な存在だから」とか説明しちゃうと、野暮、なんだよな☆
ところどころ、印象的なシーンはなんとかそのまま残そうとしているのだけど……、そうだな、残したシーンより削ったシーン、“どこを削ったか”をみると、おもしろいかもしれません。せっかくの黒沢清が“フツーにホラー”になっちゃってるゾ(残念!)。

しかし、こうしてみると、黒沢清がちりばめている記号って、意外と日本的なものなのかな、とあらためて考えさせられるねー。国内では、美術とか“欧州っぽい”といわれて、実際欧受けしてるらしいが……でも、きっと死生観みたいなのはバリバリ日本なんだろうな、と気づいた次第。“叫”とかもそうだけど、幽霊って、自分の無意識の中に住みついている存在っていうのかなー、けして、退治したりする対象ではないのよね。しかし、米映画だと、やっぱり戦って排除して、それが生き残るということ! みたいになっていて、うーむ、という感じ。その点でいくと同じ米映画でも「サイン」とか「ヒア・アフター」のほうが、なじみやすい世界観だったかな。。。

うまいヘタは別にして、国境を越えたリメイクって、そういうところが面白いんだな、と思いました。ただ「許されざる者」は……あれは、意外と同じようなできになりそうな気がしてるけど(笑)