腐印注意

腐印の 映画 アニメ BL 雑記。おもにネタバレありです。

「ポール・ハギス」

最近、すごくいいのやるんですよ、深夜のテレビ映画。話題だったのは知っていたのに、暗い気持ちになりそうで敬遠していた「CRUSH」とか、同じ監督の「告発のとき」とか、やーよかった。

「CRUSH」は、差別の問題を扱ってます。日本にいるとつい、人種差別を米がしていたのは昔の話、と思ってしまいがちだけど、ほんとはもっとずっと根深く、いろんな形でひずみを残しているんだな、というのが感じられる内容です。何組かの人たちが出てきて、はじめはなんの関係もなさそうにみえるんだけど、それが少しずつつながってひとつの問題を浮き彫りにするみたいな、そんな講成になっているので、一回見ただけだとすこしわかりづらいというか、うん、仕掛けに気づく必要はあります。
善も悪も、そのひとの成すことは、そのとき限りのことではなく、いろんなものに繋がり、伝わっていくんだ、ということが表現されている。ここまでわかりやすくはなくても、実際、こういうことってあるよなーと。
でも、普段はどうしても、視野が狭くなってしまって、いま目の前のこととか、身の廻りのこととか、そういうところに意識が向きがちで、それこそ、全体を俯瞰でみることなんて超越的な意識でも持っている存在でないとできないと思うんだが、だけど一瞬、そういうものを垣間見せてくれる偶然というか、タイミングみたいなのがあって、それを人は奇跡と呼ぶのかしら、と思わされました。
この作品では、いいひと、とか、わるいひと、というのはいない。人にはいろんな顔があって、ちょっとしたズレで、よくもわるくも転がってしまう。それは善悪とかで判断するものではなくて、そういう“人間らしさ”みたいなものを儚いと、切ないと、愛しいと思う視線で捉えられているのが、こころを揺さぶるんだよなー。

最後にクリスマスのシーンが出てくるんですよね。私はそういう記念日的なものにとんと興味がわかなくなってしまいましたが、普段、つい自分の作った枠にとらわれがちな人間が、すこし、タガをゆるめるというか、目線を高くして、自分のまわりの世界にも目を向けてみるための、合図のようなもの、ととらえると、智恵が生み出した仕掛けなのかな、と。……まあ、それとクリスマス商戦とは全然別の次元の話だと思うが。。。

告発のとき」もね、やはり米の問題を扱った作品で、軍隊に所属していた息子が殺されて、その真相を父親であるトミー・リー・ジョーンズが暴くという、それだけ聞くとよくあるサスペンスものみたいなんだが、さすがポール・ハギスです。本当のところ、“誰が殺したか”は問題ではなく、“なぜ死ななければならなかったのか”というところに、問題の核心があります。もちろん、犯人を追っていく過程にもドキドキとか状況の二転三転とかの推理や展開の面白さはあるんだが、その合間に、このお父さんがどういう人なのか、息子との関係がどんな風で、なにを思って息子は戦場にいたか、のような、人間ドラマのほうに焦点がしぼられていきます。
実直で勤勉、国に尽くし、家族を守る、アメリカが掲げるある種の理想の父親である主人公と、その父親を慕い、あとに続こうと自分も軍隊に入隊した息子、頼れる仲間たち、兵士としての誇り。でも、なにかが間違っていて、息子は戦場ではなく帰国した自分の国で惨殺される……。その理由は、一見すると拍子抜けするほどばかばかしくて、まるでなにかの冗談みたいなんだけど、でも、じつはその裏側に、手に負えないほど複雑な問題が横たわっていて、父親でさえも、その問題を構成している一部でした、という、悲しい、本当に悲しい結末なんだが、このお父さんはさ、そこから目をそむけず、最後まで、息子の視線に寄り添おうとする、それがほんとー、こころゆさぶられるのね。
涙なしには見れないんだが、このお父さんは、一度も涙を見せない。ただ、そのたたずまいみたいなものに、あまり多くを語らない、昔ながらの頑固親父って感じのお父さんの、自責の念とか、後悔とか、葛藤とか、息子に対する愛情とか、そういうものが感じられるんですね。

はぁー、すばらしい。悲しい話だけどすばらしいよ、ポール・ハギス
ミリオンダラー・ベイビー」がきみの脚本だったって、ウィキで知ったよ! 要CHECK! いまさらながら要チェキだよ!

トミー・リー・ジョーンズも、私「MIB」とジョージアの宣伝くらいしか意識してなかったが、よかた……よかたよマジで。

私、9条を守る世界会議でイラクに行った米兵の人の話を聞いたことがあるんですけど、そのことが痛いくらいに思い出されて、なんつか、米だって、一般の国民は被害者だよなーと。強いとか弱いとかじゃなく、戦争って、参加した時点で全員負けてるんだ、と心の底から思う。

みんながそのことになんとなく気付いてはいても、一度仕組みとして動き出すと、なかなか止めることができないんだな、というのも、うん、……業としかいえん。
人間て、人間がどういう生き物なのか、じつはよく知らないんじゃないかな、と最近、よく思うんですよ。ついわかった気になってしまうのって、落とし穴なんだろうなー……。


深夜映画、フランスで話題だったらしい「コーラス」とかもすごいよかったのですが、その話はまたあらためて。あ、「ゾンビランド」もやるんだよ! これゾンビスキー的には超!おすすめっス☆