腐印注意

腐印の 映画 アニメ BL 雑記。おもにネタバレありです。

「おんなのこ物語」

森脇真末味の名作です。

これ、昔、森脇真末味にドハマりしたころにワイド版で揃えてたんですが、引っ越しするときに処分してしまったんだろうな……手元になかったんです。「Blue Moon」なんか、何年もかけて古本屋で揃えていまでもきちんと持っているのに、なんでだろう、70年代な感じとかバンドの話とかがいまいちピンとこなかったのだろうか……あの頃の私のばか×3ですよ。いま、これの前作にあたる「緑茶夢」も読みたくてたまらん。探すか……。

いや、ブクオフでですね、文庫版を見つけたのでした。うわー懐かしい、と買って読み返したら、めちゃめちゃ面白かった。こんなに面白い話だったっけ? うん、当時も面白かったのはまちがいないんだけど、面白いだけでなく、なんか刺さるところがあって、気楽に読み返せない感じがあったんですよね。怖い、というほどではないんだが、なにか、イヤな感じのものが混ざってたんだよな、自分にとって。で、手放したんだと思うんだけど、月日が流れて読み返してみたらですね、すべてが腑に落ちるというか、こんなに出てくる人出てくる人活き活きとして、胸を打つ話だったのかぁ、とちょっと目が覚める思いでした。

これ、連載されていたのが80年代、で、私が読んだのがワイド版なので、もう90年代になっていたんだと思うんですよね。うっすら記憶にあるバンドブームとかの頃の話なのかなぁ……このころには、もう私は腐女でしたので、なんとなく、バンドとかやる人の話って、私とはあまり接点がないなぁ、とか思っていたのかもしれません。全体にこう、突き放して見ている感じがあって、ソッケないような気がしていたのかも……仲間だからってベタベタしていない、そういうところにあまりカタルシスが感じられなかったのか……。

しかしですね、時がたって、いまになって読み返してみると、いや、やさしいよ、みんな。あったかいよね、と逆の印象を持ちました。主人公が、どちらかというとまわりに馴染めない、とけこめない人なんだが、それをさ、放っておかないの、まわりの人が。いまの感覚だと、ちょっとおせっかいじゃない? ずーずーしくない? と感じられる場面とかもあるんだが、そういうの、ホントは必要なんだよな、というのがわかる。。。すごいヤなヤツとかもでてくるんですよ。いまなら、パッと集団からハジかれて終わってしまいそうなんだけど、そういうことをしない。怒るけど、そこにいさせてる、みたいなのさ、いま、ないよね、っていう。。。
ハデにケンカしたりぶつかったりするんですが、そのあとちゃんと仲直りできるんですよ。そうしたほうがいいよ! と声をかけてくれる人がまわりに沢山いるの。いやー、こういうの、ある? いま、単純で素朴なやさしさとか、多少のヤンチャは許されるようなユルい空気とかさ……と、なんか、話の内容だけでなく、時代の流れみたいなのに目が遠くなった……。

そう、これって一見、バンドの4人組の音楽をめぐる友情物語にみえるんですが(いや、そういう面ももちろんありますが)話が展開していくと、いわゆる世間に馴染めない、普通、といわれる枠からハミだしてしまう人たちが、どうやってまわりと折り合いをつけ、自分の居場所を探していくか、みたいな話になってくるんですよね。
ドラムの八角とリーダーの仲尾、このふたりがいわゆる天才肌で、中心になって物語が進んでいくんですが、天才ってだけあって、まあ、浮いてる。形はちがうんだけど、力があるので、予定調和とか、普通、こうなるハズ、というのを、故意にしろそうでないにしろ、壊してしまう。そういう人たちはさ、やっぱ、憎まれたり、異様に執着されたり、油断すると利用されたりしてしまうんですよね。。。そして孤独になり、攻撃的になり、恐ろしい結末に……という風に、簡単に怖い話になってしまいそうなあやうい場面とかもけっこうあるんだが、ならないの。そのまわりに、ユーモアとか、ある種の鈍感さとか、微笑ましいズレとか? みんながちょっと変わっていて個性的なので、集団になりようもないから、逆に、救いのない孤立とかもない。ケンカはあってもイジメはないのね。

こういう風に、風通しよく物事が運ぶならなぁ……とちょっと溜息です。

このマンガでは、主人公、天才的才能をもったがゆえに、孤立しがちな人、という話になっているんだが、でもこれさ、天才じゃなくても、普通の人でも、多少なりとも持っている感覚っていうか、だれでも陥る可能性のある問題ですよね。
なので、読んでいるとこう、主人公になんとかうまくいってほしい、という気持ちになる。こういう人とうまくやるの難しいだろうな、とも思うので、余計、そう思うんですよね(笑)
八角も仲尾もものすごく魅力的なキャラクターなんだが、だからって、この人たちが実際にまわりにいたらちょっと……と思わせるその描き方も絶妙ですよ、森脇真末味。うまいなー! と何度も思った。大体、この方が描く作品の主人公ってそういう感じの、嵐を呼ぶタイプの人たちが多いですが、そうね、ワルさを補ってあまりある魅力があると、巻きこまれていってしまう人たちはいるよね。
で、利用しようとするとヒドい目に合うし、執着すると地獄を見るし、やさしくすると裏切られるし、みたいな、ストレス溜まる展開も目白押しなんだが(笑) それを見て学ぶことがあるとすれば、よくいわれる世間の価値観、みたいなのとは、すこしちがう切り口でものごとを見た方がいいよ、というようなことでしょうか。
わりと、こうね、女はでしゃばるな、とか、こどもは勉強してろ、的な古い価値観とかがまだ生き残っていて、いや、まだ、っていうともうなくなったみたいに聞こえてあれですが、いまはもっと、複雑にねじ曲がって見えにくくなっているそれらのものが、もうすこし単純な形で表現されていて、それにね、いちいち、ユーモアで切り込んでいくところが面白いんだが、でもやっぱり、いまはもう、こういう風に冗談にさえできなくなったような気がするんだよなぁ……と、またしても遠い目になる。。。

「Blue Moon」とかも似たようなテーマの話だったと思うが、「おんなのこ物語」よりさらに深くてヘビーな設定になっているのにもかかわらず、いま読んだらあんまり驚かないっていう、ね。昔読んだときには、設定とか後半の展開にびっくりしたんだが、最近だとさ、ああ、これに似た話なんてけっこう聞くよね、みたいになってて、いやこれも、時代がどうとかいうより、ずっと存在してたけど単に知らなかっただけか、それとも私が汚れたオトナになっちまった? の? その両方? みたいな(笑)。

うーん、「Blue Moon」も読み返したくなったなぁ……。

えーとりあえず、そんな感じです。

とにかく、いろんな見方ができる話なので、語ろうと思うといくらでも語れる。。。そして腐女的には、仲尾がバイだったりして、萌えがあるかといったら、それはないのねっていう(笑) 八角とかも純粋にカッコいいですが、なんつの、気軽に萌えられない種類のカッコよさです、私にとっては。図子慧とかの描く男の人と同じ匂いのする色気なんですが……これを表現するのがムズかしい。

単純に好きなキャラクターといったら、私は水野! 水野です! このひともちょっと変わってはいるけど、許容範囲内というか……いなくなってしまう人と、待っている側の人がいるとしたら、私は待っている側の人に好感がもてるので、水野はやっぱりイイよね、と思います。あと金子もな(笑)