腐印注意

腐印の 映画 アニメ BL 雑記。おもにネタバレありです。

「ソロモンの偽証」 (映画・小説)

これ、予告を映画館で見て「おもしろそう」とは思っていたんですが、邦画のエンタメ作品に警戒感がある私としては(笑) 「予告を鵜呑みにはできん」と評判を検索したところ、うーん……なんかヤバそうだな、という気になり、スルー。
それがこのたびめでたく地上波で放送されましたので、前・後編と揃うまで我慢して、さっそく続けて視聴しました。

……うん、たしかに、映画館で見るほどではないな。

というのが、率直な感想。しかも、前・後編に分かれてるんだものねー……。もし、前編を映画館で見たとしても、後編をまた映画館で見ようと思うほどのヒキはなかったなぁ、と思いました。予告だと、なにかのすごい謎が生徒による裁判であきらかになる! 的な内容に見えたんだけど、謎って謎はべつに存在してませんでした。冒頭で雪のなかに埋もれている柏木君は、自殺なのか他殺なのか、というのが裁判であきらかにされる、という風に、一応、なっていましたけど、それは、映画を見ているとはじめから、自殺だろうなぁ、というように、見えます。なので、そこはべつにヒキにはならない。私が後編に期待したのは、なにかを隠していそうなミステリアスな少年、神原君の事情とか、いじめられっこの三宅さんがどうなるのかとか、主にそのへん。。。あとは、なぜか応援したくなる、ヤンキー俊次君、彼が、うまく更生してくれるだろうか、みたいな(笑) 人物の内面、心境の変化、そっちのほうが、興味をひかれた。そして、一応被害者であろうにもかかわらず、物語が進むにつれ、まったく同情する気になれなくなる柏木君(笑)
歩道橋で藤野さんがなじられたシーンが、あまりにも頭にきたので「いやいや、まて、ここまで酷く描くからには、なんかこう、絶対どんでん返しがあるハズ。それが、後編であきらかになるハズ。神原くんほどの友達がいるのにただの正論振りかざすクソ野郎ってことないよね。なにか、複雑な事情を抱えているんだよね!」
と、ある意味期待して後半にのぞみましたが………………………………ただのクソ野郎でした_| ̄|○。クソを越えて、クズに見えました。うさぎを可愛がるくらいでは帳消しになりようもない悪魔。中学生を相手にこんなことを言いたくないのですが、自分が中学生だったとしたら、神原君よりもっとひどいことを言っただろうと思います。
えぇえーーー………………。
この話の中心にいる人なのに、なんでこんな不可解なキャラにするのぅ………………。
神原君があまりにもいろんな意味でスーパーな人なので、柏木君との釣り合いが全然とれていない。勧善懲悪のB級アメコミみたいだよ。宮部みゆきって、こんな話書く人なの?
といささか混乱。
事情があるとはいえ卑怯者のそしりを免れない三宅さんだって、最後はちゃんと救われているし、暴力キャラの俊次だって、微笑ましい結末になっているジャン。。。柏木君はぁ? ただのホラーキャラ? サイコパス中学生? 
見えない、最後まで見ても柏木君が見えません。。。

映画は、まあ、柏木君の件に目をつぶればそれなりに、最後は感動するんだが、なんつか、単に、ハンサムな神原君役の子が印象に残っただけ、という気もするしなぁ。。。なんか消化不良だなぁ。。。

ということで、仕方なく原作を読んでみることにしました。
初、宮部みゆきですよ。いや、昔「ICO」を読んでみようとして、数ページで挫折したことがあったので若干不安でしたが、ハードカバーを三冊揃えてから読み始めました。一冊が厚いんですよ。
でもね、読み始めたら、難しい文章ではないし、すらすら進みました。ていうか、想像していたより、ずっとライトというか……うーん……。
とにかく、大筋はもう映画で見ているので、オチもわかっているし、なので、神原君が出てきたときからもう、最後の部分を想定しながら読んでいますので、そういう意味では、謎解き的な面白さはありませんでした。てか、そもそもこの小説、謎解きはべつに目的じゃないよな、という気が、読むほどにしてきた。奥田 英朗の「沈黙の町で」みたいな、なぜ少年が死んだのかを、まわりの状況を含めて説明していくみたいな話ではなく、むしろ「暗殺教室」。課題を与えられた中学生が、まわりの大人たちとの交流とか同級生との衝突とかを経ながら、それをどんな風に乗り越えて、成長していくか、的な群像劇だった。。。
なので、書かれている登場人物にはどんどん愛着が湧いていくし、彼らの心情や日常生活にも興味はわくんだけど、そもそも、どうしてこういうことが起こるのか、とか、それをなくすのにはどうしたらいいのか、みたいな、学校というシステムとか、教育論にはあまり重きが置かれていないし、正直、現実とリンクしている気もしない(笑)
バブルのころに時代設定されているのも、ちょい違和感でした。私はこの話の中学生たちと、まあまあ世代が近いですけど、私が中学生だったころの話というよりは、現代の中学生の話って感じがする。。。柏木君が悩んでいた自己実現とか、特別でありたい、みたいな問題を子どもが抱えたのって、わたしより、もっとずっと下の世代って気がするんだよなぁ……。
そのへんもふくめ、なんでしょうね、作りのガワは重厚なんだけど、中身はラノベとか、コバルト文庫っぽいというか……たとえば村上龍みたいに、本当にそのときの高校生にインタビューして「ラブ&ポップ」を書いて見せたみたいに、バブルの頃中学生だった世代に学校の思い出を聞いたりしたわけじゃないんだろうな、っていう(笑) いや、それが悪いっていうんじゃなくて、エンタメ作品としては、とっても面白いし、キャラクターもいきいきしていて、読んでいる間は十分楽しいんだけど、こう、ハードカバーのあの装丁で出されると、ちょっと肩すかしというか、あの大仰なタイトルに、勘違いしちゃうよな、みたいな……? 描写とかも流し読みしてしまったところがけっこうあります。もうすこし整理して、上下巻にしても良かったんじゃないの、とか……裁判で、一度読んだことをまた繰り返したりされるのも、苦痛だったしねぇ。。。
ま、小説は、さすがに映画にくらべたら、情報量は多いので、裁判を起こすにいたるいきさつとかも、藤野さんの心情とかも、よくわかるように書いてありました。特に、遠藤くんがね! 映画にいれきれなかったのはわかるけど、遠藤くんというキャラは、柏木君や神原君を描く上で、重要な立ち位置だったよな、とすこしもったいなかった。俊次くんとのやりとりとかさぁ。。。これ、映画にしないで、ドラマにしたほうがよかったんじゃないのかな……と、原作を読んでしまうと思います。そうしたら、柏木くんも、ただのモンスターキャラじゃなく、描けたんじゃないのかなぁ。。。
まあ、原作を読んでも、柏木くんというのは、描くのが難しいキャラだよな、というのは、思いました。お兄さんとの確執とか、両親との関係とか、映画よりははるかに丁寧に説明されているんだけど、でも、とにかくはじめに死んでしまっているキャラなので、すべては思い出と伝聞で語られるだけなのでねぇ……。

大体、誰かが死んだその理由なんて、本人以外にわかりようないし、ことによると、本人だって理解してないこともあるだろうし、藤野さんは、繰り返し、「真実が知りたいから裁判をする」と言っていたけど、裁判では真実なんてわからないですよ、と思ったりもしました。あれは、とりあえず知りえた事実を並べて、社会的な落とし所を見つけるためにやっているのであって、真実は、そこにいる人数分あるんでさぁ……って言っちゃうと身も蓋もないですけど。

そんなこと言いながら、米の映画やドラマでは、裁判ものが大好きな私です。弱肉強食な駆け引きで「うへぇ」と思わされることもあるけど、すごく粋な落とし所を見つけるときもあるからな。

というわけで、小説と映画、きちんと物語を追いたいと思ったらもちろん小説を読んだ方がいいとは思いますが、大筋がわかればそれでいい、という、時間に恵まれない方は、映画の方が簡単かもしれません。とりあえず要所はおさえてあるし、子役の人たちも、なかなかがんばって演じていると思います。神原君役の板垣瑞生とか、ほんと美少年だしな……。
ただ、映画だと、とにかく柏木くんが(笑) クズ野郎に見えてしまうんだよなぁ……。役者さんとの相性も悪いのかもしれません。